ご案内

小さくなったりすべて消えてなくならなくとも、がんがドーマンシー(休眠状態)に入り、日常生活になんの不都合ももたらさないのであれば、あえて強硬的な治療を介入させ、みすみす寿命を縮めるようなことはしなくてもよいでしょう。
また、診断できない潜在がんであれば、だれでももっている可能性があることを理解すれば、がんを体内に宿していることも、あまり気にしなくてすむかもしれません。 治療効果とは、かならずしも、がんを消すこととは同義でないはずです。
抗がん剤をはじめとする従来の医療は、がんの進行を阻止することがなかなかできず、せめてふつうに生活したいという患者さんのささやかな希望さえ奪うことがありました。 いまになってようやく反省の態度が出てきたとはいえ、三大療法がその狭い世界で権威を振りかざしているかぎり、進行がんの患者さんを救う道は大きく切り拓けないに違いありません。
けれども、1年という数字上の延命効果が表れたとして、そのうちの大半をベッドに横たわり、痛みや苦しみを訴えながら最期を迎えるのと、たとえ2か月の延命であれ、痛みも苦痛もあります。 しかし、亡くなった患者さんのご家族から、「残された人生を有意義にすごせ、安らかな眠りにつけました」と感謝されるようなことがあると、患者さんの余生に少しは潤いをもたらすことができたのかと安堵の胸をなでおろすのです。
現在の医療界は、いってみれば、どれだけ縮小できたか、どれだけ生存率を上げたかという数字を競い合っている世界です。 たしかに次のステップにすすむためには、治療効果の尺度を数字に求め、科学的根拠を明確にしていかなければなりません。
進行がんでない方はほとんどおられず、ドクターショッピングを重ねてようやくたどり着いたという方たちも大勢います。 早期がんなら手術、体力があり元気なら抗がん剤、医師から見放されたら免疫療法。

とくにだれかが定めたというわけでもありませんが、そういう図式がいつの間にか成り立ってしまったようです。 もっと早く来てくだされば、治療効果がもっと期待できるのにと正直いって思うことがあります。
やり残したことの一応の整理もつけて静かに亡くなっていくのか、どちらが本人にとって幸せなのでしょうか。 縮小率や生存率という数字だけではけっして測りえない幸福感や満足感といったものが、それぞれの余生には刻まれています。
個々の患者さんが価値観や人生観をどれだけ満たされたのか。 それをふくめて見ないことには治療効果を評価することはできない私どものクリニックでは、抗がん剤の判定基準と同様の方法を用いて治療効果を測定していますが、一方で患者さんの病態をできるだけ客観的に把握しようと、QOLを数値化する手段を講じています。
日本で開発されたスケール(QOL評価表)がありますから、活動状況や心理のような気がします。
ただ、その考え方は、残念ながらどの医療従事者の頭の中にも十分に植えつけられているわけではありません。 一部の医療現場では、縮小・消失がなければ、そこになんの価値も見出さず、ひたすらレントゲンやCTの画像に見入っているのです。
患者さんは治療を受けるために生きているわけではありません。 発病する前の生活にもどりたい、それが無理でも少しは近づきたいと、まさしく命を賭けた治療に臨んでいるに違いないです。
合併症を引き起こさないよう、脳卒中や心筋梗塞にいたらないように一時的によくなるのと長く変わらないのとどちらがよいのか。 強攻策に出てすぐまた逆襲されるのと、とりあえずなだめておいて、そのうち反抗するのをあきらめてもらうのと、どちらが平和的か。
皮肉なことに、これも統計をとるときには数字で表さなければなりませんが、少なくとも患者さんが面と向かって口にできないことを客観的に把握するうえで、有効な手段であると考えています。 また、それは次の治療にも生かせるのです。

患者さんのQOLを意識した治療においても、「完全寛解」や「部分寛解」を目標にとりくむことは変わりありません。 しかし、たとえ結果(経過)が「不変」であっても、患者さんが元気ならそこに価値を認め、その「不変」が長く続けば続くほど治療効果が表れていると思います。
糖尿病や高血圧症、高脂血症などと同じように、がんも慢性病の一つです。 慢性病はおおむと、みな血糖値や血圧を下げて進行を阻止しようと努力します。
がんに対するスタンスも基本はそれと同じでよいと私は考えます。 あとでくわしくとりあげますが、私どものクリニックには、「長期不変」や「不変」というがんの休眠状態を維持している症例がたくさんあります。
小さくなるのでもなく、大きくなるのでもなく、がんの進行がぱったりやんで深い眠りの底に落ちているかに見えます。 しかし、実際は患者さんの体にそなわっている免疫という力が、がんと必死に闘ってその増殖を阻んでいるのです。
休眠状態では、免疫とがんとの力関係が均衡を保っている状態が維持されていきます。 なんらかの理由でこの均衡が崩れたときには患者さんの体に変化が表れてくるのだろうと思われます。

つまり、がんの勢いがまされば当然がんは大きくなり、免疫の力がまさればがんは縮小するだろうということです。 抗がん剤で命を縮めてしまう理由の1つは、残存したがんが勢いづいてくるのを抑え込む力が弱っているからです。
抗がん剤の副作用で白血球が減少することは前に述べましたが、その白血球こそ、免疫の中心的役割を担っている細胞集団にほかなりません。 一般の病院では、抗がん剤の治療をおこなうときに免疫の力を回復させる薬を使用することもあります。
バクテリアや植物多糖類を原料とした免疫賦活剤であるピシバニール、クレスチン、レンチナンなどが使われますが、適用されるがんの種類がかぎられ、またその効力にもかなり限界があります。 また、血液中の白血球をふやすために、穎粒球の増殖因子であるG‐CSFというものを注射することもしばしばおこなわれます。
この薬によって血液中の白血球が短期間に増加することはたしかですが、免疫の力をどこまで回復させうるかは疑問が残ります。 私たちがおこなっている治療も免疫を賦活(活性化)させることを目的としたものですが、こちらは患者さん自身の活性化したリンパ球百血球を使います。
自然の回復を期待できないあまりにも弱々しくなった免疫の力を、体外で人為的に操作して数も活性度も増強するのですから、一般の病院で使われる保険薬の免疫賦活剤とはまったく異質な治療法です。 抗がん剤はがんを速攻で死滅させる優れた能力をもっています。
ただその能力も、正常細胞まで死滅させる欠点によって相殺されています。 その欠点を勢いのある免疫の力で補ってやれば、患者さんが抵抗力や体力を失って命を縮めているような現状を、かなり改善できるのではないかと思います。
またいろいろな治療法は1つではなく、いろいろな種類があり、いろいろな組み合わせがあります。 いろいろな考えをもった医師がいます。
信じてゆだねるのがベストでしょう。 それが本来あるべき医師と患者の関係です。

しかし、複雑な病気であるがんに対する治療についての考え方は、個々の医師で違いがあるのはいたしかたないことです。

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